LGBTQと翻訳
皆さんお久しぶりです!翻訳者のMillieです。
最近お仕事でLGBTQ関連のドキュメンタリーを担当しました。
学生時代にトランスジェンダーの方々を支援する団体でインターンをしていたので、「難しそう...でもいつかはやってみたい!」と思っていた分野でした。
ただ、LGBTQ系の素材で難しいなーと思うのは、まず用語。
英語圏では確立されている概念も、日本ではまだまだ認知されておらず、正式な日本語表記さえ定まっていない場合が多くあります。
例えば、先述のインターン先でこんなことがありました。
私自身はシスジェンダー(体と心の性が一致している人)ですが、職場にいる方々のジェンダーは本当に多種多様。自分のジェンダーは男でも女でもないから、"they"と呼んでほしいという方もいました。
(ただ、体の性別が女性の方だったので、慣れないうちは"Her...their pens...pen...are..is...on her...their...desk" としどろもどろ)
この"they"に「彼ら」や「彼ら・彼女ら」という和訳を当てている記事も目にしますが、あくまで1人の人を示す言葉なので、複数形にしてしまうと少しニュアンスがズレてきそうですよね。また、「彼ら」だと男性性を、「彼女ら」だと女性性を想起させてしまう...うーん。
今後日本社会がこうした言葉をどう取り入れていくのか、翻訳者としても引き続き注目していきたいと思っています。
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もう1つは男ことば・女ことば。
最近の字幕では過度な男ことばや女ことばの使用を避ける傾向にありますが、いまだに使われているのをよく目にしますよね。
例えばNetflixで配信中の『 ル・ポールのドラァグ・レース』(大好き!)。多才なドラァグクイーンたちがファッションやダンスなど様々な分野で闘いを繰り広げる番組なのですが、ここでも男ことば・女ことばの使い分けが見られます。
恐らく...
①ドラァグクイーンが化粧をしていない状態(out of drag)→男ことば寄り
②ドラァグクイーンに変身した状態(in drag)→女ことば寄り
という字幕上のルールが設定されているのかな~と思いながらいつも見ています。
ただ、①の時でも②の時でも1人の人であることは変わりないし、①の姿でも②の時と同じ話し方をする人もいます。そこの差異をつけるべきか否か、判断が難しいなあと思います。一般視聴者が違和感を抱かない、読みやすいというのが字幕にとって一番重要なポイントですが、じゃあその違和感って何?「一般視聴者」はどんな人?と考えていくと、ああ果てしない...
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ということで、色々語っておきながら、実は自分の中でもまだ答えの出ない問いはたくさんあります。ただ、「LGBTQ当事者が見た時に、どう感じるだろうか」という想像力を常に忘れず、翻訳者としての誠心誠意、言葉に向き合い言葉を紡いでいきたいなと思っています。
それでは皆さん、Happy translating♪
2020.08.08追記:
ちなみに、私が現在住んでいるオランダは「LGBTQ先進国」と呼ばれるほど、性の多様性を重んじるリベラルな国です◎
以下の動画では、アムステルダム在住の「しんちゃん」さんが、先日開催されたPride Amsterdam(LGBTQ関連のフェスティバル)についてく紹介してくださっています。LGBTQに対するオランダの姿勢が分かりやすく説明されている素晴らしい動画なので、ぜひチェックしてみてくださいね!
(https://www.youtube.com/watch?v=ACdQC9_QVNo&feature=emb_logo)